江戸時代より続く胡麻油製法が織りなす香りの世界
天秀では、関根油店の江戸時代から受け継がれる「玉締め絞り」という伝統手法で作られた胡麻油を使用している。胡麻を丁寧に煎り、鉄枠内でじっくりと搾油し、約2日間かけて和紙でろ過する工程を経ることで、胡麻本来の甘さと風味が際立った純度の高い油が生まれる。この希少な油が持つ自然な香ばしさが、天ぷら一品一品に上品な風味と軽快な食感を与えている。衣は食材の状態や気候条件を見極めながら水分量と粉の配合を微調整し、その時々で最良のバランスを追求している。
油の温度管理では、衣を落とした際の広がり方や音の変化を頼りに細かな調整を重ねている。「揚げているのに瑞々しい」という利用客の声が示すように、受け継がれたノウハウと長年の経験が結実した仕上がりとなっている。季節の変化や湿度の影響まで考慮し、職人の研ぎ澄まされた感覚によって理想的な天ぷらへと導く技術は、まさに芸術の域に達している。西新宿の店内に響く衣のはじける音と胡麻油の香りが、食事の瞬間を特別なものにしている。
豊洲市場直送の食材選びと現代的なアレンジ
毎朝豊洲市場へ足を運び、産地よりも品質を重視した仕入れを徹底している天秀。小魚から大型魚、野菜類まで、その日最も状態の良いものだけを見極めて選び抜く体制が料理の土台を支えている。定番の海老や穴子はもちろん、昔は使われていなかった新しい食材にも果敢に挑戦し、現代の食文化に適応した天ぷらを生み出している。一本一本を丁寧に仕上げることで、素材が本来持つ旨味を最大限に引き出している。
和食の繊細さを保ちながらも、既存の枠にとらわれない自由な発想を取り入れた創作アプローチが印象的だった。季節の移ろいに応じた旬の素材を巧みに活用し、それぞれの特性に合わせて衣の厚さや調理時間を調節する技法は、長年培われた職人の眼力があってこそ成り立つ。食材ごとの個性を深く理解した上で、最適な状態へと導く姿勢が、天秀の料理に独特の深みを与えている。
4代にわたる技術継承と新宿の隠れ家的空間
明治36年の屋台「天ぷら兼ちゃん」に始まり、大正期の「天兼」を経て平成元年に「天秀」へと発展した歴史を持つ。曽祖父から4代続く家業において、店名は変遷したが天ぷら作りの核となる技術と精神は変わることなく受け継がれている。初代の「基本と順序を重視し手を抜かない」という教えは、現在も日々の仕事の指針として生きている。時代の流れに左右されることなく、妥協のない姿勢で技術向上に取り組む姿勢が続いている。
西新宿に位置する店舗は木目を基調とした和モダンな内装で統一されており、新宿駅から徒歩約4分の立地でありながら都市の雑踏を忘れさせる静寂な時間が流れている。カウンター席では職人が目の前で揚げる臨場感あふれる光景を楽しめ、テーブル席はデートや接待などの目的に応じて使い分けが可能。一歩店内に入ると外の慌ただしさが嘘のように静まり、ゆったりとした食事の時間を過ごせる環境が整っている。
季節のコース料理と厳選された日本酒のマリアージュ
豊洲市場から届く旬の食材を活用した4種類のコース料理を用意している。小鉢からデザートまで含む構成で、初代からの教えを守り抜いた職人の技が一皿ごとに表現されている。誕生日祝いや商談などの特別な場面にも対応しており、五感で楽しめる食事体験を提供している。
豊洲市場の酒販店と連携し、料理人自らが試飲を重ねて選んだ日本酒を常時10種類程度揃えている。天種との相性を考慮した銘柄選びの相談にも応じており、料理との相乗効果によって生まれる新たな美味しさを堪能できると評判が高い。ランチタイムには天重、かき揚げ丼、天ぷら定食の3メニューを展開し、味噌汁や漬物、デザートがセットになったお得な価格設定で江戸前天ぷらの真髄を手軽に楽しめるようになっている。


