昭和から続く「元祖トンテキ」の系譜
高度経済成長期、工場や現場で汗を流す労働者たちの腹を満たしてきた一皿がある。名物とんてき 來來憲は1978年の商号登記以前から鈴鹿の地に根を下ろし、「登録商標・とんてき」を取得した正統な元祖として、その味を数十年間まったく変えていない。素材の選定からタレの配合、焼きの工程に至るまで当時のままを貫くという姿勢が、世代をまたいで通い続ける常連客を生んできた。個人的には、ここまで頑なに製法を守り通している飲食店は珍しいと感じた。
「久しぶりに来ても同じ味で安心する」という声がネット上の口コミでも繰り返し見られる。親に連れられて食べた味を、大人になった自分の子どもにも食べさせたい——そんな動機で再訪する家族連れも少なくないようだ。鈴鹿サーキットから車で約15分という距離感も手伝い、レース観戦の前後に立ち寄るファンの間では定番の食事スポットになっている。地元客と観光客が自然に混ざり合う、そういう空気の店だ。
故・下田憲雄氏が生んだ調理法と三重県産コシヒカリ
国産豚の厚切り肉にグローブ状の切り込みを入れ、大粒のニンニクとともに秘伝のタレで一気に焼き上げる。この調理スタイルを考案したのは創業者の下田憲雄氏で、肉の産地やグラム数、タレの配合はいまも非公開のまま受け継がれている。公開されていない部分が多いからこそ、他店では再現しきれない味が残り続けているのだろう。職人の手加減と火入れのタイミングが仕上がりを左右する、属人的な料理でもある。
白飯に使われるのは三重県産コシヒカリで、契約農家が肥料にカニの粉を混ぜて栽培したもの。米の甘みがタレの濃い味と噛み合うよう計算されており、定食としての完成度を底上げしている。ご飯のおかわりを頼む客が多いという話も聞くが、この米なら納得がいく。豚肉・タレ・米という三要素のどれか一つでも変われば、今の味にはならない。
豚肉・ニンニク・キャベツが揃う栄養の合理性
ビタミンB1を豊富に含む豚肉は、ニンニクに含まれるアリシンと一緒に摂取すると吸収効率が上がり、疲労回復や滋養強壮への効果が期待される。名物とんてき 來來憲のトンテキが力仕事の後や夏場のスタミナ補給に選ばれてきた背景には、こうした栄養学的な裏付けがある。昭和の時代に経験則で組み立てられたメニューが、結果として理にかなっていたわけだ。ニンニクの解毒・殺菌作用も加わり、夏バテ対策としての実用性は高い。
付け合わせのキャベツは大きな葉5枚ほどで1日分のビタミンCを摂れるとされ、免疫や胃腸のコンディション維持に役立つ。トンテキ一皿で豚肉・ニンニク・キャベツの三食材が揃う構成は、単なるボリューム飯とは一線を画す。「食べた翌日に体が軽い」という感想を残す利用者もいるようだ。味の満足度と栄養面が同時に成り立つ料理は、そう多くない。
二代目が守る40席の食堂、テイクアウトにも対応
三重県鈴鹿市自由ヶ丘の住宅街に立つ店舗は、カウンター8席とテーブル32席の計40席。二代目店主・紀平弘次氏が「お客様を笑顔に」という方針のもと、調理・接客・店内環境のすべてに目を配っている。定食や単品メニューのほかアルコール類も用意されており、仕事帰りの一杯にも使える。昼どきは待ちが出ることも珍しくないという声が目立つ。
餃子・チャーハン・焼きそばといったサイドメニューはテイクアウトにも対応しており、自宅で來來憲の味を楽しむ選択肢もある。家族の夕食用にまとめて持ち帰る常連も一定数いるようだ。鈴鹿サーキットへ向かう途中に寄って車内で食べる、というレースファンならではの利用シーンも耳にする。店内で食べるか持ち帰るか、状況に合わせて選べる間口の広さがこの店にはある。


