明治から受け継ぐ御用聞きの精神と米へのまなざし
亀屋酒店が扱う米は、農家から直接届いた玄米を注文のたびに店頭で精米するという方式をとっている。単一産地・単一生産者の米だけを揃え、それぞれの土地や作り手が持つ味の違いをそのまま届けるためだ。精米直後の米は水分をしっかり保っており、炊き上がりの香りともちもちとした粘りが際立つ。明治時代から続く御用聞きの文化を背景に、食卓の根幹である米と真正面から向き合い続けている。
「スーパーの米と全然違う」という声は常連客の間で繰り返し聞かれるフレーズらしい。玄米での購入にも対応しているため、自宅で好みの分づきに調整したい層からの注文も一定数入っている。精米したての鮮度がどれほど味に影響するかは、一度試すと戻れないという人が多い。個人的には、店頭で精米機が動く音と米の匂いが混ざる空気感がこの店ならではだと感じた。
仁井田本家の特約店として届ける自然酒の世界
福島県・仁井田本家の特約店という立ち位置が、亀屋酒店の酒棚に独特の色を与えている。自然米だけで醸す仁井田本家の酒は流通量が限られており、都内で気軽に手に取れる場所は多くない。日本酒に加え、国産クラフトビールや国産ワイン、さらにクラフトミード(蜂蜜酒)まで並ぶ棚は、店主が実際に飲んで「面白い」と判断した銘柄だけで構成されている。作り手の背景やストーリーまで語れる酒を選ぶという基準が、品揃えの軸になっている。
にごり酒をブレンドしたレモンサワーやクラフトミードなど、定番から外れた一杯を目当てに訪れる客も少なくないという。世界最古の酒のひとつとされるミードは、蜂蜜由来のやわらかな甘みがあり、日本酒やビールとはまったく異なる飲み口を持つ。スタッフは各銘柄の味わいや合わせる料理について具体的に案内してくれるため、初心者でも選びやすい。通好みの銘柄と入門向けの一本が同じ棚に共存しているところに、この店の間口の広さが見える。
80年超の倉庫が角打ちスペースに変わるまで
家族で代々営んできた酒屋の倉庫を全面改装し、木材と白を基調にした角打ちスペースへと生まれ変わらせた。100年以上の歴史を刻んだ建物の骨格はそのまま残しつつ、現代の感覚に合う清潔感ある内装に仕上げている。カウンター席とテラス席を備え、一杯だけ立ち寄る客から腰を据えて飲む客まで受け入れる構造だ。浅草という土地柄もあり、散歩の途中にふらっと入ってくる人も珍しくない。
無添加の食材やジュースも取り扱っているため、お子様連れや酒を飲まない同行者がいても過ごしやすい環境になっている。角打ち限定で提供される酒やおつまみがあり、ここでしか試せないメニューを目的に足を運ぶリピーターも目立つ。「子どもと一緒でも気兼ねなく入れた」という女性客の感想がSNS上でも散見される。酒屋でありながらカフェ的な空気を同時に持つ、ちょっと不思議な居心地のよさがある。
イベントを通じて広がる「次の一杯」への好奇心
新酒の飲み比べや、和食・台湾料理の料理人を招いたペアリングイベントなど、亀屋酒店は定期的に多彩な催しを開いている。角打ちスペースがそのままイベント会場になるため、普段の延長線上で参加できる気軽さがある。まだ広く知られていない銘柄と料理の組み合わせを試す場として、酒好きの間では徐々に認知度が上がってきた。店舗外への出店も行っており、浅草の地元イベントなどでもその姿を見かける機会が増えている。
参加者からは「普段選ばない酒に手が伸びるようになった」「料理との合わせ方で味がここまで変わるとは思わなかった」といった反応が寄せられているそうだ。一方的に知識を伝えるのではなく、飲んで食べて自分で発見する流れを意識した構成になっている。イベントの告知はSNSや店頭で随時行われており、予約が早々に埋まる回も出てきた。次にどんな蔵元や料理人が登場するのか、チェックしておいて損はない。


